お題、こけし

日立優斗がクッキーでアイスクリームをほじって食べているとハト時計が19時を告げる。
「もう帰る時間か…」
少し憂鬱そうな表情で帰り支度を始める優斗。


帰り道、徐々に家へと近づく度にその表情は曇っていく。そしてとある外灯に照らされたゴミ収集場で足が止まる。そして、そっと収集所をのぞきこむ…。
「ここにはない…」そしてまた歩き出す。


しばらく歩くと住んでいるアパートの前に到着する。そして恐る恐るポストを覗く…
「今日はここにもない…」
そしてアパートの外階段を上って自分の部屋の扉の前に立つ。
ガチャガチャ、と鍵が閉まってるのを確認した上で鍵を開けて部屋へと入る。


入ると同時に急いで壁際のスイッチを押し明かりを着ける。そして異常がないか確認する…
すると、ポタッポタッ…と水が落ちる様な音を聞く。
慌てて周囲を確認すると自分の足下に自分の冷や汗が垂れていた。
「うわっ、自分の汗に驚いてやんの、ビビリすぎだって…。だって鍵閉まってたんだし…」


そしてリビングに行き、荷物をテーブルの上に置く。
するとそのはずみでテレビのリモコンがテーブル下に落ちてしまう。
「おっ、リモコン、リモコン…」
リモコンを追ってテーブル下をのぞき込む。
その瞬間「…ヒッ!」と驚きテーブルから離れる。


テーブルの下には今朝ゴミ捨て場に捨てたハズの『こけし』があった。
「へ、部屋の中まで…」

数日前、帰宅してポストをチェックするとこの『こけし』があった。気味が悪かったものの誰かが間違って入れたかもしれない、と思
ったので他の人にも見えるようにポストの上に置いておいた。
しかし、ポストの上に置いても帰宅時に見るとまたポストの中に…という事が繰り返された為、思い切ってゴミ捨て場に捨ててみた。


初日は何ともなかった為安心したが、2日目、気づくとポストの中へ。またゴミ捨て場に捨てても次の日にはなぜか階段途中に置いてあったりと繰り返す内ドンドンと自分の部屋に近づいてきていた。


また同じ繰り返しなのだろう、そう思いつつも僕はまたゴミ捨て場に捨てに行った。


しかし、翌日僕はこの行動を後悔する事になる。

…そう、この時、僕はこの『こけし』をちゃんと供養しておくべきだったんだ…

それが、まさか、あんなことになるなんて…