お題、き 気になる木

使いを終えた小嶋沙紀が花屋『モンキーポッド』に帰ってくる。
「優くん、ただいま。お隣さんから勘太ロール借りてきたよ」
花に水を掛けている日立優斗が振り返る。


「あ、ありがとう。そこのレジ脇にでも置いといて」
「うん。あれ、でもさっきのお客さんは?」
「あぁ、なんか急ぎだったから手書きで領収書書いて渡しちゃったよ」
「ふ〜ん、でもコレ、勘太ロールおみやげに渡すんじゃないの?」


「…え?」
「えって…え?」
「勘太ロールおみやげにしないでしょ?」
「……」
「…ちょっと良い?」


沙紀が持ってきた袋を開けて中を見る日立。
「あれ、ロールケーキ…なんでロールケーキ?」
「ロールケーキ?」


そしてふとカレンダーを見る沙紀。その視線に気付く優斗。
「あぁ、明日で一年になっちゃうんだ…」
「うん…」
「変なもんでロールケーキ見たらアイツ思いだしちゃったわ。ロールケーキ好きだったもんね、アイツ」
「うん、高校の時なんかお弁当箱とロールケーキ詰めたタッパー毎日持ってきてたもんね」
「ね。巻き寿司かと思ったらロールケーキでさ。なんでロールケーキなんだよ!って言ったらロールケーキも巻き寿司も対して違わねぇよ!とか言ってさ、ちょっと発想が飛んでるとこあったよね」


「うん、なんか話してると変な事言うんだよね。途中からはそこが好きだったんだけど」
「変といえばさ、この店の名前、アイツが付けたんだよ」
「そうなの!?」
「うん、この店始める時に名前で迷ってたんだけど、アイツがさお前苗字日立なんだからモンキーポッドにしろよって」


「どういう意味?」
「日立のCMあるじゃん、気になる木の。あのCMに出てる木がモンキーポッドって言うんだって。そっから取ってモンキーポッドにしろってさ」
「あ〜なんだろ理屈わかる様なわかんない様な…でもそこが小嶋君っぽいけど」
その時、外で鳴っている夕焼け小焼けの放送が店内にも聞こえてくる。


「あ、保育園の迎えの時間だね」
「本当だ。じゃあお先失礼しちゃいます」
「はいはい〜」
店の奥に行って簡単に着替えを済ませる沙紀。


「あ、沙紀ちゃんさ、コレ持ってってよ」と言って花束を渡す優斗。
でも渡した途端に顔が赤くなって。
「あ、違うよ、明日墓参り行くんでしょ?それ用だからね」
「わかってるよ、だってそれ以外に優君が私に花束渡す事ってある?」
「そう…だよね。あ、あとこのロールケーキも持ってって良いよ」
「良いの?」
「いいよ、帰って陽太くんと一緒に食べなよ」


「ありがと。…でも優くんには感謝してる色々して貰って…。それに今なんて仕事までさせて貰ってて」
「いや、別に…。それにアイツに俺になんかあったら頼むって言われてたし…てか、ほら時間だよ」
「あっ、じゃあゴメン行くね」
「うん、じゃあね」
そして走っていく沙紀。


沙紀が居なくなって優斗一人になった店内。
「なんか寂しくなっちゃったな…」
そう言って寂しさを紛らわせる様にラジオのスイッチを入れる優斗だった。