お題、か

夏休みのある昼下がり、僕は携帯の着信音で目を覚ました
「はい、もしもし…」
「おう、良太か。どうせ暇だろ?悪いけど今日店番頼むわ!」
その一言だけでガチャリ、と切られる電話。おじさんの電話はいつもこんな感じだ。そして僕は身支度をしておじさんの店へ急ぐ。


「あれ?」おじさんの経営する喫茶店につくと店の入り口のドアが無くなってる事に気付く。
「おじさん、コレ…」と言うと
「あぁ、さっきえらいファンシーな生き物が持ってっちまったんだよ、『モキュ』とかいう鳴き声のやつでよ。だからこれから探しに行く所なんだよ」


そういうおじさんの格好を良く見ると洞窟探検にでも行くかの様な重装備をしている。
「じゃあ、行ってくるわ。帰ってきたらバイト代弾むからよ!」
旅立つおじさんの背中を見送りながら、この機会に店名変えちゃえばいいのにと思っていた。だって店名がどすこい喫茶ジュテームって…


その時入り口から「すいませ〜ん」という声。
お客さんだ!そう思って「いらっしゃいませ!」と言うと
「あっ、隣の花屋のものなんですけど…」
「はい」
「すいません、勘太ロールって…ありますか?」
「カンタロールですか?少々お待ち下さい…」
カンタロール、カンタロール…となりのトトロに出てたのはカンタ、北風小僧はカンタロー…ダメだ絶対関係ない…


そう言ってロールケーキの類か?と思ってメニューを見る…が、ない!ロールケーキはあるが、そんなメニューはない!
「すいません、ちょっと今日、店長居ないんでわかんないんですけど、どんなものなんですか?」と思い切って聴いてみた。すると、
「いえ、私も良く知らなくて。ウチの店長がお隣さん行って貰って来いって言うもんで…」


「あぁ…」そう言ってダメもとで冷蔵庫へ…
ロールケーキはある。その時、ふとおじさんが昔言ってた事を思い出す。「俺の名前ってさ、ウチのじいさんがカンタって言うんだけど、そこから一文字取ってカンジって名前なんだよね」と。


…繋がった!


僕の推測だが、おじさんのおじいさん、要はこの店の創業者の名前がカンタ、そしてこの店の創業が昭和30年頃、そしてロールケーキが日本に登場したのも昭和30年頃。つまりこの店がどすこい喫茶なんていかれたネーミングのままやってこれたのは、当時まだ日本で馴染みのないロールケーキを店で提供してヒットしたのだろう。


それがこの辺りではカンタのロールケーキ、通称カンタロールと呼ばれているのだと。
そして僕は冷蔵庫からロールケーキを取り出しお持ち帰り用のパックに詰めて渡す。


「どうぞ、勘太ロールです」
「あっ、どうも」
そしてその方が店から出て行く様を見届ける。その時僕の頭の中はナゾを解き明かした爽快感で一杯だった。