崖があったら・・・の回

え〜〜っとですね、昔から嫌な事があったりなんだりすると、穴があったら入りたいなんて事をいう訳ですけれどもね。この前あっしの師匠筋にあたる人とそんな話をしてたら、最近の若い奴らに言わせると少し様子が違う様で、最近はなにか嫌な事があったりすると、もう駄目だ死にたい、なんて所まで行っちまう様なんです。
それじゃまるで、崖があったら飛び降りたいじゃねえかなんて事を言いながら、まぁ嫌な事があったからって死んでたんじゃとっくに人間なんてこの世からいなくなっちまってるよ、なんて事を言ってたんです。
まぁ、そんな事があった次の日の昼ごろに近所をぶらぶらしてたらですね、昔あっしの寄席にじいさんに連れられてよく来てた坊主がですね、まぁ坊主といっても今じゃとっくに成人して働いてるんですがね、その坊主がまるでこの世の終わりだ、みてぇな青っ白い顔して歩いてた訳なんですな。
あっしはそういうもんはほっとけない性分だし、全く知らねぇ間柄じゃねぇってんで話かけてみたんですわ
「おい、坊主どうしたんでぇ、そんな顔して?」
「あっ、師匠さんですか、お久しぶりです」
「挨拶はいいから何があったか話してくれねぇかい?」
「はい、実は朝寝坊して会社に遅刻しちゃったんですが、どうしたらいいんでしょう?やっぱり僕みたいな人間はいない方が良いんでしょうかねぇ?」
「なに下らない事言ってんでぇ、遅刻なんてなぁ普通に生きてりゃ1回や2回、場合によっちゃあ100回はしてるヤツもいるもんなんだ。俺も寄席に遅刻したり、この前なんか勘違いしてすっぽかしちまった事もあるんだ、そういう時はな素直に頭でも下げてその後真面目に働きゃいいんでぃ」
「そうなんですか・・・じゃあ、そうしてみます」
え〜〜、そんなやり取りがありましてですね、それから何日かですねその坊主の事、まぁ昔からバカ真面目な坊主だったんでね、ちょいと心配してたんですな。
まぁ、それから4、5日いや1週間位経った頃でしたかね。夕方にまたこの前と同じ様に近所をブラブラしてたらですねあの坊主が歩いてたんで気になってたんで話かけてみたんですわ
「おい坊主この前はどうだったんでぃ?」
「あ、師匠さん、え?この前ですか・・・あぁ、あの遅刻の時の、いえ素直に謝ったらどうって事ありませんでした、あの時はご迷惑お掛けしました。」
なんて、あっしと話した事は元より、遅刻した事も忘れちまってる様だったんです、心配損ですな。
人間なんてそんなもんで、どれほど悩んでいた事だって過ぎてしまえばどうって事無かった、なんて事になっちまうもんなんですわ。
さてここで今日寄席にお越しの皆さんにお詫びしなければならない事がありやす。
実はあっし本日の入り時間に20分ほど遅刻をしてしやいました、全く持って噺屋としてプロ失格でございます。
あぁ、崖があったら飛び降りたい・・・本日はこのへんで失礼しやす。